2008年11月17日

蕾 第百四話


 シャワーを浴びたせいで、髪の裾がまだ湿っている。

 達彦の自己中心的な行動に翻弄されてから、まだ1時間ちょっと。
 るり子が迎えに寄越した黒い車の後部座席に、私はお行儀よく腰掛けている。

 この車は居心地が悪い。
 バックミラー越しの運転手と目を合わさないように、私はずっと外を見ていた。
 着物を着た女性や、いつもより晴れやかな装いの人たちが歩いている。

 世間は「正月」だというのに、私は大晦日から今日まで

  クリトリスと挿入

 の事しか考えていない。
 誰かが私の頭の中を覗き込めば

  「おかしな人間」

 と言うだろう。
 だが、
 私の人生にとって今はそれが一番大事な問題なのだから仕方がない。

 あれやこれやと頭の中で言い訳をしていると、車はあの大きな門の前に着いた。
 私は運転手との共有時間を最小限にするために

  「ありがとうございます」

 とだけ言って、車から飛び降りるように離れた。

  「早く会いたがってると思われる」

 自分の行動を、いちいち人がどう思っているか考える自分に嫌気が差した。

 女性を愛してしまうという自分の性癖に気がつき、
 戸惑い、
 そして悩み。

 愛した人ほど受け入れてもらえず、
 苦しみ、
 そして絶望し。

 やっと同じ感情を持った人たちの存在を知った時、
 私はもう人の目を気にするのはよそうと決めたのに。

 あれから5年。
 それは

  本当に愛した人

 と結ばれるのではなく

  理解してくれる人達

 と結ばれる。
 そういう妥協の人生の選択でもあった。

 そして、私は恵美子と出会い

  私の世界の外に居る人

 を

  私の世界

 に招き入れたいと強く思える程に成長した。

 なのに、今更。
 もしかすると、達彦を利用しようとする行動が私をまた

  「人の目」「一般的に」

 と言う言葉で呪縛しているのかもしれない。

 〜つづく



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haruhara1 at 23:22│Comments(0)TrackBack(0)この記事をクリップ!【小説】 宵待譚 

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